情報処理2006より「SNSの現在と展望」

情報処理学会の情報処理2006に「SNSの現在と展望 −コミュニケーションツールから情報流通の基盤へ −」と題された原稿が掲載されていた。国立情報学研究所/総合研究大学院大学の大向一輝氏の執筆。

SNSの紹介から、歴史、現状分析、そして今後の見通しが解説された記事であるが、なかなか面白い。私が特に興味を惹いたのが、社会ネットワーク分析の部分だ。引用しよう。

 森らは、2005年2月時点のmixiの全参加者36万人に対して中心性を用いたクラスタ分析を行い、参加者を3つのグループに分類した。また、松尾らは同じデータについて知人数の上位200名のみで構成されたネットワークを分析し、どのノードも孤立することなしに1つのネットワークに集約されることを示した。これらの結果より、多数のリンクを持つノードのグループが同士が密接につながっていることが確認された。
 この現象は、大規模な複雑ネットワークにおいて普遍的に観察されるスケールフリー性およびスモールワールド性を示している。スケールフリー性とは、ネットワークを構成するリンクの大部分が少数のノードに接続され、大多数のノードはごく少数のリンクしか存在しないような状態を指す。<中略> 一方、スモールワールド性とは、ネットワークの規模に比して任意の2ノード間の距離が短くなるような性質のことであり、これを満たすためにはランダムネットワーク(ノード間の関係に法則性がないネットワーク)と比較してクラスタリング係数が高い必要がある。
 これらの知見より、SNSランダムネットワークではなく、知人同士が密接につながった小規模なコミュニティが、リンク数の多いノード(ハブ)によって大域的に連結された構造であると予想される。

IPSJ Magazine Vo.47 No.9 Sep. 2006 「SNSの現在と展望」P.996-997 より

つまり一般人は小規模のネットワークに参加し(=少数のマイミクを持ち)、そのネットワークの構成要素のいくつか(=マイミクの中の少数の知人)が、ほかネットワークとのハブになるという構造だ。これはP2Pネットワークの構造と似ている。SNSの基本コンセプトは「友達の友達は友達だ」というシックスディグリーズの考えを元にしている*1が、その実際は「友達の中にはほかの友達群との橋渡しをしてくれる人がいて、それにより友達の輪が広がる」という状況のようだ。考えてみれば、実世界でもそうかもしれない。

ところで、この記事の中にも書かれていたし、昨夜のワールドビジネスサテライトでも紹介されていたのだが、Yahoo! Daysでは細かいアクセス制御が可能なようだ。

 このような問題に大して、Yahoo!のSNSである「Yahoo! Days」などでは、知人関係をコミュニティごとに分類し、情報のアクセス権をコミュニティ単位で付与する機能を提供している。

IPSJ Magazine Vo.47 No.9 Sep. 2006 「SNSの現在と展望」P.997 より

これぞ、まさに私が「あなたはマイミクリクエストを拒否できるか?」で書いていた、

マイミクに関しては、もう1つ、人間関係のドメイン(領域)の問題がある。これはあまりほかの人には理解されなかったのだが、私には複数のペルソナがある。会社でのペルソナ、友人に対してのペルソナ、家族に対してのペルソナ。友人や同僚に対しても、細かく分けるといくつものペルソナがある。マイミクに対してだけ日記を公開している場合、それはほかのドメインの知人には知られたくない。もっとわかりやすく言うと、会社での顔は家族には見せたくないし、その逆もしかりだ。できれば、SNSには1つのアカウントでもっと細かいアクセス制御ができる機能が実装されることを期待する。

を実現できる機能なのではないだろうか。

ただ、記事では次のように課題も挙げている。

ただし、この方法であっても、コミュニティとして明確に区分できないような範囲に対して情報を発信する場合の作業負荷は大きくならざるを得ない。また、コミュニティを中心としたアクセスコントロールにおいては、コミュニティの参加者が時系列的に変化する場合に、新たな参加者に過去のコンテンツへのアクセス権を付与してよいかといった問題もある。
 これについては、コミュニティをあらかじめ定義するのではなく、情報へのアクセス時に現状のネットワーク構造を動的に分析し、その結果を用いて制御を行う手法が模索されている。前節で述べたように、大規模な社会ネットワーク分析手法が整備されつつあり、これらを用いることによって実用的なアクセスコントロールが可能になると期待される。

IPSJ Magazine Vo.47 No.9 Sep. 2006 「SNSの現在と展望」P.997 より

なるほど。過去のコンテンツは新しくコミュニティに入ってきた人には見せたくないことがあるのだろうか。個人的にはちょっとこの課題はイメージがわかない。コミュニティ(Yahoo! Daysの場合は単なる知人の分類なのではないかと思う。昨夜見たWBSの感じでは。)って、過去のコンテンツも含めて共有することが前提となっているのかと私は思っていたが。

「コミュニティをあらかじめ定義するのではなく、情報へのアクセス時に現状のネットワーク構造を動的に分析し、その結果を用いて制御を行う手法」というのが一般人にも直感的に理解できるものだとよいのだが。複雑なアクセス制御は結局は使われないか、穴だらけになる。これは私の経験から言える。

*1:と勝手に思っているが、違うのかも。