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ソーシャルDRM

ネット技術

HTML5などのWeb標準技術で現状簡単には対応出来ないものの一つがコンテンツの著作権保護だ。HTML5のビデオやオーディオ要素についても一時騒がれていたコーデックの統一などはWebMの登場などもあってだいぶ落ち着きつつあるが、著作権保護、すなわちDRMについては現状まだ決定打が無い。

そもそもDRMはコンテンツをコンテンツホルダーが付与した権利を超えて利用することを防ぐ技術だ。多くはライセンスを付与した対象者以外の人が利用することや対象者であっても許可された以外の使い方をすることを防ぐために利用される。後者には利用するデバイスを制限したり、許可されたデバイス上で閲覧(表示)は出来るが、テキスト部分のコピーを許さなかったり、印刷を許可しなかったりなどが行われる。

DRMはキリがない。優秀すぎる技術、柔軟すぎる技術は使う側をわがままにさせる。良く言われるように、セキュリティやプライバシー、コンテンツ権利保護などの技術はユーザーの使い勝手とのトレードオフになる。コンテンツホルダーはそのことを理解しなければいけない。利用者が減ったり、利用頻度が減ることを避けつつ、もっとも重要な部分を保護しなければならない。

使う側をわがままにさせると書いたのは、ついつい使う側は安全サイドに倒れがちだからだ。たとえば、Windows Rights Managementというサービスがあった。多分、今もあると思う。これは本当に良く出来ているシステムで、Microsoft Office製品とWindows Server/Active Directoryを組み合わせることで利用出来る権利管理技術だ。たとえば、Outlookでメールを送る際に閲覧可能な期間を制限したり、印刷したり転送したりすることを禁止したりすることが出来る。Windowsと連動しているのでスクリーンショットを取ることさえ無効にすることが出来る。つまり、考えられるすべての情報漏えいやコンテンツの許可されない形での利用を防ぐことが可能だ。

このWindows Rights Managementを使い始めたある企業で何が起こったかというと、管理職がほぼすべてのメールにもっとも厳しい制約、たとえば転送不可かつ印刷不可など、を付けて送るようになったのだ。メールの中には自分の部下に全部ではないにしろ一部を伝える必要があるメールも多かったし、同僚にサマリーを伝える必要もあったようだ。メールを受け取った人の中には止むに止まれず、メールの内容を自分で再入力したり、ディスプレイに写ったメールを携帯で写真をとって、それをメールにして送ったりしていたようだ。本末転倒とはこのことを言うのだろう。

DRMに関しても、個人の利用も制限し第三者への譲渡などが完全に不可能なようなDRM技術が要求されるようなコンテンツももちろんあるだろう。だが、購入から再生への処理を簡略化することにより購入が促進されていることを考えれば、必要十分な機能と容易な操作性を持ったDRMが期待されるコンテンツも多くあることは容易に想像出来る。

iTunes PlusはDRMフリーの楽曲を販売するAppleのシステムだが、ここで利用されているのは、個人を特定できる情報をDRMフリーのコンテンツに埋め込む技術だ。実際には、Apple IDがコンテンツの中に埋め込まれているようだが、これを埋め込むことにより、楽曲の購入者がコンテンツを違法なP2Pネットワークに放流した場合には、誰が購入したものかを特定することが可能だ。実際には、そのようなことが可能ということが知れ渡ることによる抑止効果のほうが大きいのかもしれない。

楽曲というコンテンツだけでなく、これを電子書籍などに発展させることも可能だ。実際、米国ではそのような形でのDRM、ソーシャルDRM(Social DRM)を利用しているパブリッシャーがいくつかある。Programmatic BookshelfSafari Books Online*1などだ。このソーシャルDRMでは購入者の名前などを入れることにより、権利者であるユーザーが他人にそのコンテンツを渡すことを防いでいる。

このソーシャルDRMという概念、元AdobeのBill McCoyがAppleSteve JobsDRMフリー宣言を受けて書いたブログの中で言い出したのが最初のようだ。すでに昨年、彼はAdobeを退職したようだが、Adobe社内でe-Bookのキーパーソンだった彼は次のように書いていた。

For eBooks, I really like the “social DRM” approach of The Pragmatic Programmers, who “stamp” PDF eBooks with a “For the Exclusive Use of …” and the name of the purchaser. Given that they are making more than 30% of their total sales on eBooks, far more than any other traditional publisher, it’s hard to argue that this approach is infeasible.

Bill McCoy / Steve Jobs: Eliminate Music DRM!: So, What About eBooks?

あれだけきめの細かいアクセス制御が出来るPDFを持つAdobeでさえソーシャルDRMのアプローチが有効だろうと、すでに2007年の時点で述べている。

日本におけるメディアやパブリッシャーの議論を見ていると、そもそもコンテンツ内のテキストを引用させることさえ禁止しようとしているようなものも見受けられるので、このようなソーシャルDRMの適用などは解決策として検討されることは無いかもしれない。

先のWindows Media Rightsの例を持ち出すまでもないが、利用者が使いにくいまでにがんじがらめに利用制限がかけられたコンテンツは利用されないか、逆にその利用制限を不正に外そうという力学が働く。それがとてつもなくアナログな方法であっても。利用されてこそ価値が出る。それを考えた場合、ソーシャルDRMというのは結構魅力的な方法に思えるのだが、どうだろう。

[追記 7/21]HTML5のことを冒頭で書いたが、HTML5でのコンテンツの権利管理をソーシャルDRMで解決出来るという提案になっているわけではない。この件は別途考え中。

[追記 7/23]はてなブックマークのコメントで、XMDFはソーシャルDRMだと書かれていた。不勉強を晒してしまったようで大変恥ずかしい。どこを見たら良いか良くわからなかったのだが、Wikipediaからリンクされていた「電子出版とXMDF技術(PDF)」を見たところ、確かに改ざん防止以外など以外の著作権保護としてはフットプリント技術を使っているようだ。もうちょっと調べてわかったらコメントしたい。

*1:Safari Books OnlineはDigital Watermark、つまり電子透かしとだけ言っているようだが。