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置換思考実験

あるものの本質を考えてみるには、そのものをほかに置き換えることを考えてみると良い。ほかに置き換え可能だろうか。可能であるとするならば、何がそのものにとって必須なもので、何が付帯的なものだろうか。こんなことを考えてみるのは良い思考実験だ。

少し前になるが、知人と名刺の話をした。

その知人も同じIT業界の人間だ。名刺管理が面倒くさいという話から、名刺って本当にいるんだろうかという議論になった。メールアドレスさえ分かっていれば良いとか、Facebookなどで連絡取れるようになっているほうが便利というような話から、じゃあデジタル技術で名刺を置き換えられないかという話になった。

名刺をデジタル技術やネット技術で置き換えるという話は、それこそ星の数ほど今までにされている。私が在籍していたころのマイクロソフトも日本発のソフトウェアとして、インターコネクトという製品を開発・販売していた。また、ソーシャルメディア上の情報を一元管理し、それを交換する仕組みとしてもリプレックスという会社が4、5年前に提供したことがあった。可愛らしいガジェットを通じて*1、コンタクト情報を交換するPokenというのもある。

しかし、いずれのサービスも既存の名刺を置き換えるには至っていない。

何故だろう。

1つには、紙という究極の汎用フォーマットの存在がある。アナログの代表格である紙は現時点において、誰もが確実に読み書きすることのできるフォーマットだ。先に挙げたいずれのサービスも相手が同じサービスを使っていない限りはほとんど役に立たない。紙はいつでもどこでも誰に対しても利用することのできるフォーマットだ。結局は、いまだにどんなサービスもこれを凌駕することはできていない。

一方、名刺の役割をもう一度見なおしてみることで見つかることもある。これが「置換思考実験」だ*2

紙という最強フォーマットの存在はとりあえず置いておく。また、ネットワーク外部性もとりあえずここでは忘れよう。

あなたがFacebookを超えるようなソーシャルメディアを持っていて、AmazonのKindleAppleiPhoneを超えるほどに普及しているスマートデバイスに好きに機能を加えられるとでもしてみよう。どんな機能があれば、名刺を置き換えることができると考えるだろうか。

名刺には、コンタクト情報を交換するという役目がある。先に挙げたサービスのほとんどはこの部分を置換することに重きをおいている。

しかし、名刺の役割はそれだけではない。

ヒントとして、もらった名刺を少し眺めてみると良い。

最近交換した名刺を見てみると、いくつかの「特徴」があることがわかるだろう。

一般に普及している名刺よりも小さいサイズ*3のもの、角が丸くなっているもの、自分の顔写真が印刷されているもの、自分の似顔絵が印刷されているものなどが見つかるかもしれない。これはすべて、自分を特徴付けるためのものである。交換したほかの名刺に埋もれないように、自分を目立たせる。相手に自分を覚えてもらう。そのための工夫だ。

また、この工夫は、自己紹介する際にも使われる。初対面の相手を前に、話すネタの1つとして、その工夫をした名刺を使うのだ。

変わった名刺を渡された相手はおそらく聞くだろう。「変わった名刺ですね」と。それを発展させ、自分のことを印象づける。このような自己紹介ツールとしての大切な役割が名刺にはある。

一方、凡庸な名刺であっても、話を発展させるという役割は一緒だ。あなたが営業担当者だったとする。もらった名刺から、話を展開することができて、初めて一人前だ。「御社のオフィスは渋谷なんですね。学生時代のバイト先が近くにあったと思いますが、XXXという店はまだありますか?」など、名刺を使って、相手との関係を深めることができる。

いずれも、紙というフォーマットを使って目の前に表示されるからこそ提供される機能だ。デジタルだネットだと言うが、そこで置き換え可能な名刺の機能はコンタクト情報の交換という大きいけれど、それがすべてではない機能に過ぎない。

ほかにも気づいていない名刺の役割はあるだろう。大量の名刺を前に、俺はこんなに多くの人と知り合いなんだと悦に入るとか。いや、これはFacebookTwitterでのつながりの多さで悦に入れば良いからデジタル/ネットで置き換え可能か。

いずれにしろ、この置き換えるとしたら、何が必要かという思考実験。いろいろと面白いから試してみても良いのではないだろうか。少なくとも、酒の肴にはなる。

*1:ハイタッチさせて

*2:ところで、何故、私の使っているIMEは「痴漢思考実験」と変換したがるのだろう

*3:何故か少し小さい、細長いものになっていることが多い