カンボジアのキリロムに未来を見た

カンボジアにキリロムという場所がある。プノンペンから車で2時間〜3時間ほどかかる場所だが、カンボジアの軽井沢とも言える高級避暑地だ。

vキリロム会議

ここで開かれたvキリロム会議というものに参加してきた。このキリロムにネイチャーリゾートと工科大学を作った日本人起業家がおり、一年ほど前に知り合ったことから今回の会議に招待された。会議は事業や工科大学での教育について広く議論するものだ。今回は、東南アジアを中心にビジネスをしている起業家や教育関係者、メディアや技術者など54名の参加があった。テーマごとのパネルディスカッションを中心に、学生を交えた議論や学生が行っている事業をピッチする場などが用意されていた。

カンボジアという国は内戦により知識層の多くが虐殺された歴史を持つ。そのため、教育が行われてこなかった。人口ピラミッドを見ると、かなりいびつな形となり、同じような発展途上の他国とも異なる事情を持つ。教育や仕事に関する常識が異なると言っても良い。そんな中、ここに設立されたキリロム工科大学はユニークな方針を打ち出している。それは「完全無料の全寮制」という大胆なコンセプトだ。

何故そんなことが可能なのか。リゾートでの企業研修や一般のツーリストからの収益、企業からの奨学金インターンシップとして企業からの受託する事業費などが教育に投資されるというモデルとなる。

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インターンシップを中心とした教育

インターンシップが教育としても、事業としても核となる。インターンシップで大学やリゾート施設が必要とする技術基盤やサービスを用意することで費用を最小限に抑えられ、学生も実践に即した学びの機会を得られる。これはプロジェクトベースドラーニングと呼ばれる教育だ。大学が必要とするマシンなどは敷地内にあるデータセンターに格納されているが、その管理もすべて学生が行う。デモ動画を見たが、Webベースの管理画面から各コンテナを簡単にデプロイ出来るようになっていた。Wi-Fiも敷地内どこでも利用出来るようになっており、リゾート客向けのスマホアプリもある。

リゾートは様々なタイプの部屋が用意されているが、土管を利用した部屋は学生が作っているという。

バーチャルカンパニーという起業訓練

また、バーチャルカンパニーという仮想企業が大学内に用意されている。実際に利用される開発を行うことで、社会に出て即戦力となる技術力を得ることが出来る。学生が社長(プレジデント)となり、社会人(教師を含む)のメンターのサポートを得ながら、組織と事業の運営、顧客開発とソフトウェアの開発・運用を行う。

この仕組で作られているのは、大学で使われるシステム以外に、ECシステムやERP、IT人材のマッチングシステム、敷地内のセキュリティシステムなどだ。敷地内のセキュリティシステムは敷設されたカメラから送られた画像と映像を解析し、不審者の検出や車のナンバープレートを確認などが可能となる。電源はソーラーパネルから取り、Wi-Fiクラウドと連携する。これは外販を視野に入れている。

大学発ベンチャーという考えは良くあるが、これは大学内ベンチャーであるため、仮想のものではあるが、実際のビジネスも大学を通じて行うことが出来る。結果、厳しいビジネス要求に応える開発を体験することが可能となる。

バーチャルカンパニーを代表とする大学での様々な工夫は、大学が教育とシードアクセラレーターの両方の特徴を持っていることの現れだろう。

学生と大学の実態

このような教育の結果、キリロム工科大学はカンボジア国内では一気にトップの大学となった。国内で行われているコンテストやハッカソンで無敵の存在となり、連勝を続けている。

そんな学生に向け、vキリロム会議の2日目の午前中に講義を行う機会を得た。前日午後に急に言われたので、有り物の資料を慌てて英訳したのだが、一部は日本語のまま説明だけ英語で行った。2日目は日曜日だったのだが、寮に残っていた学生の多くが参加した。

話した内容は、機械学習活用のコツとプロダクト志向の開発、そしてエンジニアとしてキャリアの3つ。1時間ほど話した後に質疑応答を受け付けたのだが、質問が途切れない。30分以上、様々な質問に答えた。講義への集中度も極めて高いものだった。

私は日本の大学でも講義を持つことがあるが、日本のトップ大学にも引けを取らない、もしかしたら日本の大学生の方が少し負けるのではないかとさえ思わせるほどの積極性だった。質問も実に的を射たものだった。会議のクロージングとなるパーティーの場にも来ていて、そこでも次から次に質問攻めにあった。

これは、キリロム工科大学の評判が高くなったため、カンボジアでも優秀な若者が集まるようになったことも理由であろう。英語も私よりも流暢な子も多くいた。英語でのコミュニケーションで困ることは全く無かった。

大学には日本人も10名ほど在籍しており、数名の日本人学生とも話す機会を得た。日本では得られない環境で学ぶ彼らはグローバル人材の卵だ。彼らも、学びへの姿勢が日本人学生のそれとは異なっているように見えた。とても積極的だ。私が帰国してきてからも質問してくた学生も多い。人によって向き不向きはあろうが、海外での教育機会として有力な選択肢となっていく可能性もある。

日本人学生のインタビューや大学の紹介はキリロム工科大学のYouTubeチャンネルにある動画を見て欲しい。

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キリロムの未来と日本の未来

カンボジアは現在でも生活水準は極めて低く、政治にも問題は多い。しかし、希望がある。収入も毎年2倍や3倍の向上が期待出来る。

幸せというのは今現在の絶対値ではなく、未来への期待の相対値だ。希望は今の環境ではなく、未来への期待に依る。

カンボジアと日本の若者を見たときに、どちらが幸せなのだろうと考えてしまったが、それは与えられた環境によってすべて決まるものではなく、その環境の選択も含め、自らの期待とそれに向けての努力によって決まる、いや決めるものではないのかと思った。キリロム工科大学で学ぶことを決めた日本人学生は自らの意思で決めている。

キリロム工科大学のカリキュラムも今がベストとは限らない。変わらずに変わり続けることで常に自らの可能性を追求する。そのためには、教育内容も常に見直し続ける必要があろう。

完全無料で教育機会を与えるという非常識なこの事業がこのまま継続できる保証は無いかもしれないが、この未来が見通せない、閉塞感が漂う世界の中で、自ら未来を切り開いていくこの挑戦から学べることは多いだろう。