SaaS vs. ASP

今まで、SaaSとかASPとかクラウドコンピューティングとか感覚的に使い分けていたのだが、ITmediaエンタープライズにASPSaaSの違いをクリアにしようという記事が出ていた。

 SaaS(Software as a Service、サース)とは、「ベンダーが所有するソフトウェアをユーザーがネットワーク経由で利用するサービス」を指す。それは「カスタマイズの実現度」「ユーザービリティの高さ」「マルチテナント技術の応用」といった技術的裏付けから従来のASPとは区別されるソフトウェアの提供形態である。

連載:SaaSで一歩抜け出す中小企業:ASPとSaaSの違いをはっきりさせる(ITmediaエンタープライズ)

ここでは、SaaSと呼ぶことができる技術要素/条件を書かれているように次の4つとしている。

マルチテナントとは1つの企業ユーザー用にシステムリソースを確保する(one-to-one)のではなく、1つのシステムリソースを複数の企業ユーザーに利用できるようにする(one-to-many)ことだ。これにより、システム構築コストが大幅に下がり、システムの不具合やセキュリティ対応のための作業も効率化されることになり、運用ベンダーとユーザーの双方にメリットをもたらす。

カスタマイズはその名のとおり、ユーザーごとにカスタマイズを提供できる機能のことであるが、ここで筆者はかなりのレベルのものまでを要求している。

テンプレートを用いたカスタマイズやコーディングによるカスタマイズのみしか実現できない場合はSaaSと呼ぶには不十分である。

確かに、ユーザー側からの視点で見た場合は、このような期待*1があることはわかるが、これをSaaSの条件とまで言えるのだろうか。

ユーザーインターフェイスについては、ユーザビリティの高いサービスであることを要求しているので、まったく異存はないが、わざわざ条件として言及しなくても良い気がする。

マッシュアップについては、ウェブサービスのようなオープンインターフェイス(API)によってほかシステムと連携を図れることを書いている。

正直、良くまとまっていると思うものの、少し高い基準を要求しすぎているように思う。どこまでが筆者個人の考えなのか、どこからが何かで定義されているものなのかは記事からは読み取れなかったが、英語版WikipediaのSaaSの説明ではSaaSの条件として次のように書かれている。

Key characteristics of software delivered by SaaS

The key characteristics of SaaS software, according to IDC, include:

  • network-based access to, and management of, commercially available (i.e., not custom) software
  • activities that are managed from central locations rather than at each customer's site, enabling customers to access applications remotely via the Web
  • application delivery that typically is closer to a one-to-many model (single instance, multi-tenant architecture) than to a one-to-one model, including architecture, pricing, partnering, and management characteristics
  • centralized feature updating, which obviates the need for downloadable patches and upgrades.

Wikipedia: Software as a service

簡単に言うと、ネットワーク経由でアクセスし、管理できる、汎用に公開されているもので、ユーザー側でなくウェブを通じて遠隔にあるサービスを利用できるモデルであり、複数のユーザー提供するサービスとして(one-to-many; マルチテナント)として用意されており、集中的に機能のアップグレードをすることによりパッチや更新プログラムのダウンロードが必要とないモデルと書かれている。

もちろん、ITmediaで書かれているような内容についても言及されているが、それはあくまでも"Drivers for SaaS adoption"−つまり、SaaSの普及を進める要因(ドライバ)として書かれている。

経済産業省が公開した「SaaS向けSLAガイドライン」にも簡単にSaaSの定義が書かれているが、そこでの条件も極めてシンプルだ。

 本ガイドラインにおけるSaaS とは「インターネット経由でアプリケーション機能を提供するサービスの形態」を指す。最も一般的なSaaS の形態は、SaaS 提供者が提供するウェブアプリケーションを利用者がウェブブラウザを通じて利用する形態である。
 SaaS 提供者が提供するサービスには、アプリケーション機能に加え、システムの管理および運用、利用者に対するヘルプデスク業務なども含まれている。

経済産業省: SaaS向けSLAガイドライン

カスタマイズやシステム間連携、ユーザーインターフェイスについても書かれているが、あくまでも「そのような機能が期待される」、「そのような用意されている場合には」という切り口で書かれており、すべてのSaaSソリューションがそれらを持っていることを前提とはしていない。

書いているうちに何を言いたいのかわからなくなってきたが、ちょっとITmediaの記事がかなり狭義にSaaSを定義しているように思えたので、私個人の感覚がずれているのか確認してみた。結論としては、今現在においてはSaaSはもう少し広い意味で、まだ使われていると思うのだが、どうだろう。

あ、タイトルに書いた、SaaS vs. ASPについても、英語版のWikipediaの説明で私はすっきりとした。HTML(すなわちウェブ)を利用し、自社開発した技術で顧客にサービスを提供しており、マルチテナントをサポートしていること。以上である。2つ目の「自社開発した」という部分は、たとえば、マイクロソフトのExchangeやSharePointなどを用いてインターネット上でサービスしている会社があるが、それらはASPではあっても、SaaSではないということだ。私としては、これで十分かと思う。

*1:できるだけ容易な方法で高いカスタマイズ性を実現する