ITから考える地方自治 〜 「税金はどこへ行った?」をオラの街にも作ろう
「税金はどこへ行った?」というプロジェクトをご存知だろうか。
日経新聞やNHKなど大手メディアにも取り上げられているので、ご存知の方も多いかもしれないが、国民/市民である我々が払っている税金が何に使われているかを可視化するプロジェクトだ。もともとはイギリスで"Where Does My Money Go"という名前で始まったが、現在では日本を始め世界各地でこのプロジェクトに賛同したサイトが立ち上げられている。
百聞は一見にしかず。実際に見てもらうのが良いだろう。
「税金はどこへ行った?」とは?
日本版の税金はどこへ行った? Where Does My Money Go?を訪れてみて欲しい。2分少々のビデオがあるので、それを見るとプロジェクトの概要や状況がわかる。
WHERE DOES MY MONEY GO? 〜税金はどこへ行った ...
このサイトの各地への広がりから、日本のいくつかの自治体向けに作成されたサイトを見ることができる。このブログ記事執筆段階では、以下の19市町村向けのサイトが記載されている。
- 神奈川県横浜市
- 千葉県千葉市
- 宮城県仙台市
- 福岡県福岡市
- 愛知県北名古屋市
- 宮城県南三陸町
- 北海道江別市
- 北海道札幌市
- 京都府京都市
- 東京都小金井市
- 東京都武蔵野市
- 宮城県石巻市
- 北海道旭川市
- 茨城県水戸市
- 東京都杉並区
- 東京都中野区
- 東京都調布市
- 東京都葛飾区
- 大阪府吹田市
基本的にはどのサイトも同じ構成をとっている。
たとえば、日本で最初にサイトが立ち上がった横浜市版を見てみよう。自分の年収をスライドバーで指定し、「独身」か「扶養あり」かを選択すると、自分の1年間に払う市税がわかり、さらには1日あたり何に税金が使われているかわかるようになっている。トップにある項目、たとえば「経済・観光」をクリックすると、さらに細かい項目での用途とその額がわかる。
使途別予算額をクリックすると、年間予算の使い道が俯瞰的に見ることができる。これも同じく、それぞれの項目をクリックすると、細分化した使い道がわかる。
見てわかるが、データの可視化の例として見ても、大変面白い。
有志により構築するサイト
これらのサイトで用いているデータであるが、自治体が公開している資料を元に有志が整理をしたものだ。たとえば、先日公開を開始した宮城県石巻市版では、平成25年度の予算データを石巻市に縁のある有志が集まり、震災復興用途がわかりやすいような形に分類した。分類したデータは表形式でまとめ、Open Knowldge FoundationのプロジェクトであるOpenSpendingに登録されている。OpenSpendingは世界の政府の支出をトラックするためのデータを収集するサイトだ*1。
自治体自体がデータをプログラムで処理しやすい形式でオープンデータとして公開しているわけではないが、有志によりそのように加工しやすい形にしているという意味では、オープンデータを活用した例と考えて良いだろう。
サイトはGitHubで公開されているソースをフォークして、自治体特有の修正をかければ、簡単に立ち上げることができる。手順はSpending.jp クローンサイトの立ち上げ手順 (OpenSpending 対応版)にまとめられているので、多少の経験のある開発者なら対応可能だ*2。困ったときに相談できるフォーラム(ML)も用意されている。
市民ワークショップとして有効なプロジェクト
実は、石巻市版は私がサイト構築部分を担当させてもらった*3。
サイトの構築準備は土曜日の午後を使って行った。事前に手順などを整理し、市のサイトのどこを見れば良いかなどは確認しておいたが、それ以外は石巻復興プロジェクトの東京の拠点である石巻マルシェにて有志の方とともに行った。
そのときの模様は石巻復興プロジェクト発!「税金はどこへ行った?」石巻版の記事を見て欲しい*4が、参加者から「これは市民のワークショップとして有効だ。是非、全国各地でやってみるべきだ」との声があったのが印象に残っている。
これは本当にそうだと思う。
政治参加というと堅苦しく感じるが、自分たちの支払っている税金を本当に必要なものに使って欲しいと思わない人はいないだろう。可視化するために財政データを分類する作業は、こういうと不謹慎かもしれないが、意外に楽しい作業だ。分類するためには、内容を知らなければならないし、内容を知ろうとすると、自治体のサイトをさらに眺めるなどして、自治体の状況をより理解する。ほかの自治体の状況を確認してみることで、自分の住む自治体の良い点悪い点もわかる。
このように、今回は石巻市の財政データをくまなく目を通したが、正直に言うと、人生で初めて行政の財政データをまともに見た。こういう機会が無ければおそらく得られなかった経験だ。
Spending Data Party 2013
ここまで読んだ貴方はきっと自分の住む自治体版の「税金はどこへ行った?」を立ちあげたくなっていることだろう。上であげた手順書などを読んで自分でサイトを立ち上げるのも良いが、「私は技術者じゃないし」と躊躇する人もいるだろう。
そんな方のためのイベントが7月20日と21日に予定されているSpending Data Party 2013だ。これは、世界各地の「税金はどこへ行った?」プロジェクトが協力し、さらにこの活動を広めるために、同時に開催されるイベントだ。私も共催であるHack For Japanのスタッフとして参加する。
両日に行われる作業内容は以下の3つが予定されている(Spending Data Party 2013より抜粋)。
- 立ち上げサポート
Spending.jp を自分たちの街でたちあげたいと思っている方に対して、データ作りやアプリケーションのセットアップなどの立ち上げサポートを行います。 - 詳細データを使った理想形、あるべき姿の追求
現在のSpending.jpは、予算の中にある各事業の詳細が見れない、他地域との比較ができないなど、まだまだやりたいことを全部できている状態にはありません。リソースやデータの目処がつけば、理想形に近づけることへのチャレンジを行いたいと思っています。 - プラットフォーム理解の為の調査研究
Spending.jp が利用している Where Does My Money Go? や OpenSpending.org といったプラットフォームについての理解を深め、可能であれば本体プロジェクトへ貢献することを検討します。
1の「立ちあげサポート」については、サイトを立ち上げた経験のある人が何名もいるので、データの整理(表計算ソフトで可能だ)まで行えるならば、その後の作業は経験者に任せられると考えて良い。不安だったら、あらかじめフォーラムで聞いてみると良いだろう。
2の「詳細データを使った理想形、あるべき姿の追求」については、まず議論から始まるところは多いだろう。たとえば、自治体間の比較については、歳出データに関しての共通の分類が必要である。現在の日本の各自治体のサイトを見てみるとわかるが、分類はさまざまである。共通の分類として「政府機能分類/Classification of the Functions of Government (COFOG)*5」を使うことが検討されており、日本語対訳も用意されているが、日本の地方自治体にどのように適用するかを検討しなければならない。また、そもそも日本の地方自治体で共通の歳出科目が使われてないという現状がある*6。このような議論にも、多くの人に是非参加してもらえると良いと思う。
3の「プラットフォーム理解の為の調査研究」についてだが、実は、本家のOpenSpendingでは「税金はどこ行った?」のサイトを構築するためのプログラムの新しい移植性を高めたものが新たに用意されている。先日、Spending Data PartyをのコーディネーターであるAnders Pedersenとビデオ会議をした際に知らされた。多くの自治体サイトを効率よく、さらには保守性を高めるために、日本から提案できることもあるかもしれない。
また、現在のサイトは可視化されたデータを見るだけであるが、そこに市民からの意見を反映できるようになればもっと良いだろう。これについても、 AndersからOpen Budget Oakland - 2013-15 Mayor's Proposed Spending (Treemap)というサイトを紹介された。
今流行りのフラットデザインであるが、見ている人がコメントを書き込めたり、ソーシャルメディアに共有できたりする。これにより、市民の歳出について意見も可視化することが可能になる。
これはあくまでも例であるが、ソーシャルメディアの活用であったり、市民からのコメントを可視化するような方法についても検討するのではないかと思う。
いずれにしろ、あまり固く考えずに、気軽に参加できるイベントだ。土日のいずれか一日の参加でも構わないし、ネット経由での参加も受け付けている。
自分の住んでいる街をもっと知るためにも、「税金はどこへ行った?」を是非作ってみよう。
*1:Open Knowledge Foundation(OKFN)はオープンデータとオープンガバメントを推進する国際的な団体。活動については、日本のOFKNのサイトなどを見ると良いだろう
*2:Windows版についてはopenspending - Windows 7/8 で Spending.jp クローンサイトを立ち上げるための Jekyll セットアップ手順も参考にすると良い
*3:実は私は震災後になんどか石巻を訪れているものの、基本的には石巻に縁もゆかりもない人間だ。いくら石巻を遠方から支援したいと考え、その一環で石巻市版を立ち上げたと思っても、私のような縁もゆかりもない人間が勝手に石巻市版を立ち上げることには心理的な抵抗も強かった。だが、ふとしたことから知り合いになった石巻復興プロジェクトの方々に、石巻市版のアイデアを持ちかけたところ、幸いにもすぐに興味を持っていただき、共同でサイトを構築することとなった。
*4:これは本当に必見だ!