商材とは

以前一時的に支援していた会社では、プロダクトのことを「商材」と呼んでいた。微妙に違和感がありながらも放置していたのだが、少しこれについて考えてみた。

実は、決して短くない私の人生の中でも「商材」という言葉を聞くことは、この会社の支援をするまでほとんど無かった。

この種の用語としては、外資系にいたこともあり、「プロダクト」という言葉が一番馴染みあるものだった。その次にプロダクトの日本語として一番適切な言葉であろう「製品」、そして「商品」だ。

「商品」という言葉でさえ、違和感があり、以前に 製品と商品 - Nothing ventured, nothing gained. というブログ記事を書いたことがある*1

商品と製品とプロダクトの違いさえ微妙なところに、商材と来た。これは一体なんだ。

調べてみると、商材は売る側が使う言葉であり、商品は売る側と買う側のどちらも使う言葉だという説明があった。確かにそうだ。客が「その商材をください」とか「この商材について質問があります」とかは言わない*2

商材とは「材」という言葉が示すように、部材であり、通常はこれに何らかの付加価値を追加して、売り物とする。わかりやすくいうと、完成品ではない。他の何か、または誰かによる補完される必要があるということだ。

確かに、商材という言葉を使っていた支援先は、その商材を単体で売ることはほとんど無かった。他商材と組み合わせたり、SI事業としてソリューションを提供する場合の部材として使っていた。

一方、昨今声高に叫ばれるようになったProduct-Ledという言葉。これはプロダクトがそのプロダクト自体の力により売れるようになるということだ。営業からのアプローチが無くとも、顧客がフリーミアムなどからプロダクトの魅力を認知し、それにより利用を開始し、契約に至るというパスを経るパターンだ。

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PLG

これがすべての事業において主流になるわけではないが、商材と呼んでいる会社からはこのPLG (Product-Led Growth) が起こることはない。

商材という言葉で説明される事業形態には人が確実に介在する。スケールさせるためには人的リソースの投入が不可欠である。労働集約モデルに依存し続ける。

商材という言葉を社内で使っている会社はここまで考えていないだろう。しかし、言葉には魂が宿る。何気なく使っている商材という言葉から、他の何かにより補完されることを前提としたものしか作らないというマインドセットが醸成される。

PLGが正義でもないし、従来型の営業活動が否定されるものでもない。PLGから始まった事業でも、さらにスケールさせるためには従来の営業的なアプローチであるSLG (Sales-led Growth) と組み合わせたハイブリッドが必要になることもあると言われている。

しかし、商材と言い続けることにより、PLG的な発想をすることをすることを停止しまっていて、PLGで殴り込みをかけてきている新興企業と戦うことができるのかは真剣に考えた方が良いであろう。

*1:今読むと、周りくどくて、これはこれで何を言っているか意味不明だが

*2:客が卸問屋でも無い限り