Quiet Riot

久しぶりにサンフランシスコに滞在している。IT系のカンファレンスで良く使われるMoscone Center近くの宿だ。Googleに勤めていたころはGoogle I/Oで良く来ていた。

サンフランシスコのダウンタウンに宿泊すると、急にアメリカンなジャンクフードが食べたくなることがある。今夜もご多分にもれず、どうにも我慢できず、夜の11時過ぎなのに、2軒行った後だったのに、来てしまった、Moscone Centerの真裏にあるMel's Drive In。Moscone Centerから近いこともあり、ここで食事をしたことのある日本人も多いだろう。

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今回の訪米の目的はMicrosoftの技術カンファレンスであるBuildへの参加だ。Windows 8から"Build"と呼んでいるらしいが、私の世代的にはPDC、Professional Developers Conferenceだ。Microsoft技術で飯を食っているときは、Microsoftが行うこのPDCでどんな新しい技術が披露されるかが楽しみだったし、Microsoft社員になってからも、どんなものをPDCで公開できるのだろうというのが励みだった。

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Mel's Drive Inは古き良き時代のアメリカを残すレストランということもあり、25セントを入れると好きな曲がかけられるジュークボックスが装備されている。今夜も、少し酔ったこともあり、何かかけようかと曲を探し、"Cum On Feel the Noize"を選んだ。

この曲を演奏しているQuiet Riotは、若い人は聞いたことの無いバンドかもしれない。80年代に一世を風靡したと言われてはいるが、実際には80年代を生きていた人でも知らない人は多いだろう。今は亡き若き天才ギターリスト、ランディローズが在籍していたことで知っている人も多いかも知れないが、"Cum On Feel the Noize"くらいしかヒット曲は無い(しかも、この曲はランディローズ脱退後の曲だ)。ここMel's Drive Inでもこの曲しか入っていなかった。

 

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Buildの初日のキーノート、すでに日本でも報道されているように、多くの発表があった。Windows 10のAnniversary UpdateでWindows Inkが拡張される話、Windows Helloがサードパーティにも公開される話、bashを始めとしたLinuxサブシステムが搭載される話、Cortanaを中心としたCognitive ServiceがAPIとして整備され、それを活用したMicrosoft Bot Frameworkが提供される話…

私がMicrosoft社員だったころ、Microsoftは圧倒的な技術力を利用して、それこそ最先端の技術を活かした製品を投入していた。PDCはその発表の場だった。今回のBuildは、その頃とはまた違う形でわくわくする技術を提供している。

何が違うのだろう。

考えたのだが、それは社風というか、物腰というか、カルチャーというか。今日、急に言われて出演したMicrosoftのChannel 9の現地実況放送でも話したが、私がいたころのMicrosoftは「肉食系」で、競合を見つけては自分たちの優位を訴え、自分たちの技術で世の中を制覇したいというのがありありと見えているような会社だった。これはこれで勢いがあり、社員としてはやりがいもあるのだが、社外の人から好かれる会社ではなかった。

今回、久しぶりにMicrosoftのConferenceに出て感じたのは、「肉食」の対比で言うならば「草食」の、IT社会を発展させるための良き市民としてのMicrosoftだった。

こう言うと、おとなしくなり、面白みも無くなった会社と思われると思われるかもしれないが、Google OBでもある私も気持よく安心して応援したくなるような良い会社になっている。2時間半にも渡る基調講演も心地よく楽しめた。

初日が終わった後に一緒に食事をした日本のMicrosoft社員は私が在籍していた当時のMicrosoftを知らない。何を話しても昔話になる。Windows Inkの話にしても、私が口を開くとWindows for Pen Computingから話したくなる。そんな昔の話でなくても、Tablet PCというのが2000年中頃にはあったんだけどとか言いそうになる。Cognitive Servicesということで発表されたDigital Assistantの話にしても、覚えていた人であっても無かったことにしたい"Bob"を思い出す。bashの搭載にしたって、私が担当していたSFU (Services for UNIX) のリベンジだ(この話は特に話させると長い)。

すべて焼き直しだとか、俺が生き証人だとか、そんなことを言いたいのではない。

純粋に嬉しい気持ちが強い。

俺たちのMicrosoftが帰ってきたと。

90年代から2000年前半にかけて、憎らしいくらいに強かったMicrosoftが紳士になって帰ってきた。

ともすれば閉塞感漂うこのIT業界において、紳士になったMicrosoftがどのように我々を驚かせてくれるかは素直に期待したい。

Quiet Riot、静かなる暴動。Microsoftダウンサイジングやエンドユーザーコンピューティングというのを追い風に主役に踊り出た時代とは違うが、複雑に絡みあうIT業界において、大人になった紳士なMicrosoftがどのように静かに暴動ならぬ革命を起こしてくれるかはとても楽しみだ。

そういえば、Quiet Riotの"Cum On Feel the Noize"もSladeのカバーだ。良いコンセプトのものは何度繰り返しても良い。成功するまでしつこくやるのがMicrosoftのDNAと言われている。

あと7時間ちょっとでBuildの2日目。今度はどんな発表があるだろう。 

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