エンジニアのためのマネジメントキャリアパス ―テックリードからCTOまでマネジメントスキル向上ガイド

オライリーから本日出版された「エンジニアのためのマネジメントキャリアパス ―テックリードからCTOまでマネジメントスキル向上ガイド」はエンジニアリングマネジメントを考える人には必読の書だ。

 

エンジニアリングマネジメントを考える人とは、今すでにエンジニアの上司である人やエンジニアリング組織の長である人はもとより、人事上の上司ではないが、後輩などの面倒を見る立場の人や開発において技術的にリードするような人、そして漠然と将来のキャリアパスとしてマネジメントを考えている人までを含む。さらに言うならば、技術系でなくても、自社の技術組織の戦略を考える立場である人も読むべきであろう。

目次を見るとわかるが、本書はマネジメントされる立場のエンジニアから話は始まる。そしてメンタリングする立場になったとき、次にテックリードになったときと、まさにキャリアパスを1つずつ登っていくのに際しての心構えと具体的なスキルについて解説されている。ここまで網羅された本は米国であっても多くない。だからこそ、米国でも高く評価されている。

さて、日本だけでなく、世界的にエンジニアはマネジメントロールを嫌う。日本だけでないとは言え、日本ではその傾向が特に強いように私は思う。その理由はいくつかあるが、1) 過去の上司がろくでもない人だった(ので、そんな人に自分はなりたくない)、2) マネジメントについた先輩が幸せそうに見えない(ので、そんな立場には自分はなりたくない)、3) マネジメントとは具体的に何をすればわからない というのが主なところだろう。

1) は問題外で、組織としてはそのようなろくでもない上司は排除せねばならない。これは技術系に限らない。

2) はマネジメントとしての仕事の多くが技術に直接関係ない仕事であり、多くは事業(ビジネス)サイドとの折衝などが中心であり、そこには板挟みとしての苦悩がある。これでは楽しいわけがない。企業としては、本当に技術的に優れた人にその仕事をやらせる必要があるかを考えねばならない。

3) は武器もなしにいきなり戦場に出ろと言われているのに等しいのだから、武器、すなわちマネジメントスキルを与えなければいけない。

見ればわかるが、1) は問題外として、2) と 3) は企業(組織)が自らの努力により改善可能なものだ。エンジニアリング強化に組織力強化が必要と認識し、そこに投資をするつもりであるならば、エンジニアリングマネージャーという職種を魅力あるものにしなければいけない。実際、本書でも書かれているが、エンジニアリングマネージャーは醍醐味のある魅力ある職種である*1。だが、そこに地図もコンパスも無ければ、その道程は険しいものとなろう。本書はエンジニアリングマネジメントを志す人のサバイバルガイドと言っても過言ではない。例えば、マネージャーになると、当たり前のように、1on1をするように言われるが、1on1で何を話せば良いかわからない人も多いだろう。実は、1on1というのは1つしか形式が無いわけではない。本書では複数の形式を提示し、読者が状況に応じて選べるようにしている。かように、極めて実践的な内容が含まれている。

実は、本書のまえがきを書くという名誉ある仕事を任された。そこにも書いたが、ここで書かれているエンジニアリングマネージャーはスーパーマンかと思うような人である*2。大変な仕事だが、だからこそ今までマネジメントを毛嫌いしていた人であっても、マネジメントに魅力を感じるであろう。技術を通じて製品やサービスを作り、人や社会に変革をもたらすというのがエンジニアの夢ならば、それに加えて、そのようなエンジニアが成長し、高い意欲で開発を続ける組織を作るというのが加わったのが、エンジニアマネージャーなのだ。人嫌いの人には向かないが、組織作りもエンジニアリングと共通点は多い。創意工夫次第で1人では出来なかったことが実現されていく様子を見るのは純粋な開発にも負けないくらい魅力的だ。スーパーマンと言ったのは、どのように地位が高くなろうと、自ら手を動かし技術に触る機会を持つべきであると一環して言われているように、高い技術力と組織作りの両方が要求されるからであるが、技術をやり続けられるならばと魅力を感じる人も多いであろう。

日本では、未だにある程度まで昇進すると、強制的にマネジメントロールにつかなければならないという旧態依然とした人事制度にとらわれている企業も多い。これは明らかに改めるべきものであるが、一方で、スペシャリスト(英語ではIndividual Contributorと呼ぶことが多い)としてのキャリアパスが用意されている場合であっても、もしくはそのようはキャリアパスを企業に要求する場合にしても、スペシャリストとしての実績がマネジメントのキャリアパスに進んだ人間と比するものにするには何をしなければならないかは考えなければならない。マネジメントの能力や評価は、そこまで単純ではないにしろ、組織の規模に比例するところは大きい。10人より50人、そして100人とモチベーション高く働くエンジニアを束ねていたならば、その規模だけでも功績は認められよう。スペシャリストは、100人の組織の長となっている人間に匹敵するには、どのような功績を残すことがふさわしいのか、自らも考えてみるべきである。マネジメントに進むもの、マネジメント以外での貢献を選ぶもの、多様なキャリアパスを用意することが組織や企業を強くしていくが、そのどちらも自らの役割を見つめ直すことが必要であろう。

本書がエンジニアリングマネジメントはもとより、スペシャリストの道を進むものにとっても、自分の役割を改めて考えるきっかけになればと思う。

 

*1:もちろん向き不向きはある

*2:だからこそ、私はまえがきの中で、「自分のことは棚にあげるが」と書かせて貰った