人材流動性と年齢差別 〜 米国シリコンバレーの事情

ロイターに面白い記事があった。

Special Report: Silicon Valley's dirty secret - age bias | Reuters

シリコンバレーにおける職探しで年齢差別がはびこっているという記事だ。

記事は、現在60歳のRandy AdamsがCEO職をシリコンバレーで探していた時のエピソードから始まる。CEO職を探すという時点で、すでに日本の状況とはだいぶ異なっているが、それはさておき、彼はいくつものポジションを断られた。採用されたのは彼よりもずっと若いが、経験も少ない若い人間たちだ。

白髪混じりの髪を剃り、ローファーをコンバースに履き替えたことで彼は職を得たが、その後もボタンダウンシャツをTシャツにしたり、常に最新のガジェットを所有するようにするなど、イメチェンを余儀なくされている。

記事では、シリコンバレーでは若い人、具体的には40歳以下、が好まれる傾向があり、このような若い人信奉は年齢差別としか見られないことも多いという。

記事の中ではシリコンバレーで働くリクルーターが、あるソフトウェア企業から、カリフォルニア州法および連邦法で禁じられているにもかかわらず、「26歳あたりの年齢の人」と具体的に年齢を指定して人材を探すのを依頼されたことを紹介する。

また、技術マーケティングと戦略の専門家である61歳になるJeff Spirerは、ある会社の採用担当者との電話インタビューの後、オフィスにてCEOとのインタビューに臨んだが、その会社の20代のCEOは彼の姿をひと目見るなり、急用があったと言って席を立ち、二度と戻ってこなかったという。インタビューが再度組まれることもなく、そのポジションには若い人が採用されたという。

若い人が採用されているのには、年齢という理由だけではないことがあるのも事実だ。子供を持つような世代の人は時間的制約が厳しく、長時間勤務や残業もしにくいことが多い*1。若い人のほうが最新のプログラミング言語などに長けていることも多いだろう。このようなこともあり、年齢差別があるということを証明することは難しい。

シリコンバレーにおいて若い人が信奉されるのは、FacebookのZuckerbergを始めとして、そのような成功者が登場した際に、年齢が大きく注目されることが多いためだとも言える。実際には60代や70代で成功する経営者もいるのだが、それらがニュース価値を持つことは無い。

だが、それでもシリコンバレーの年齢差別と見られかねないカルチャーを具体的に示す事例には事欠かない。

Sequoia CapitalのMike Moritzは若い層に対して「彼らは素晴らしい情熱を持っている。彼らは家族や子供などのような邪魔する存在を持っていない」と言っている*2

Khosla VenturesのVinod Khoslaは「新しいアイデアに対しては45歳以上の人間は基本的に死んでいる存在だ」と言っている。

記事は見た目を若く保つシリコンバレーの中年男女を紹介して終わる。着るものを若くし、中には美容整形をするものもいる。そのようにして自分の希望するポジションを得る。


さて、日本の状況を踏まえて、この記事を読むと、60代でもまだ自分の専門性を活かした形でスタートアップなどの経営に参画できるというのは羨ましく思える。記事では特に目立つ例を取り上げているのだと思うが、それでもこれが記事になるということ自体が、40代や50代で能力があれば、自分の専門を活かした形でのキャリアアップが可能ということであろう。

シリコンバレーや技術企業以外では、40歳以上で年齢差別に会うことは想像できないだろうという記述があるのだが、日本ではどんな業種であっても、40歳以上での転職はかなり苦労する。最近でこそ変わってきているが、日本ではスペシャリストとしてキャリアを積み上げることが一般的ではなく、ある年齢以上になるとゼネラリストとしてのキャリアしかなかったため、企業を変わった途端に自分が身に付けてきたものがまったく通用しなくなる。

若さを保つという極めてアメリカ的で皮肉な事例を紹介して記事は終わったが、日本では敢えてこの「若さを保つ」というのを40代以上の人間はやってみてはどうだろうか。美容整形などはしなくても良い。だが、最新の動向を把握し、自ら試し、自ら作り上げる。若い人と話す機会がなければ、このようなことも出来ないだろう。

以前、Google+に書いた文章をここに再録しておく。

自分よりも下の世代と話すことが多いし、これからもそうだと思う。

上の世代にも同世代にも尊敬する方々はたくさんいる。同年代というのは生まれ育った時期が一緒であり、コンテキストを共有していることによる安心感はあるし、そこでしか生まれないものもある。

だが、ここしばらくは同世代よりも下の世代と関わることのほうが多い。それは自分のいる環境(会社や業界)に拠るところも多いだろうが、それだけでなく、自分がそのほうが心地良さを感じているからだと思う。

この先、何年生きられるかとか考えると、下の世代とのつながりを持っているほうが、先立っていく友人や知人を見送った後に残った場合でも寂しくなないだろう。というような後ろ向きの考えだけでなく、やはり下の世代のほうが活気があるし、発想が豊かだ。「今の若者は」と、私にもし言わせたとしたら、「大変素晴らしい」と結ぶだろう。

50歳になっても、60歳になっても、下の世代とつながっていたいよね、と同世代の知人と話したが、そのためには下の世代から会う価値のある人間だと思われていないといけない。いつまでも古い価値観にしがみつき、動脈硬化した発想しかできない人間は老人クラブで余生を楽しむのが良い。私は走り続ける。

ということで、今週末は長野マラソン♪

https://plus.google.com/106357774291225510689/posts/emR9CtoYp4C

このロイターの記事の中でも、Benchmark CapitalのPeter Fentonが同じようなことを言っている。Benchmark Capitalは自社のアクティブなパートナーたち*3を出来るだけ40歳以下にしているが、そのパートナーに対し、彼は「我々には若さを追求し、若さを保つための方法がある。心を若く保つことだ」と伝えている。

見た目から入っても良いというよりも、見た目から入るほうが大変かもしれないのだが、若い人の中に混じって仕事や勉強ができるようにしてみよう。それが自分がビジネスの世界で生き残ることにつながり、さらには日本のビジネスを生き返らせることにつながる。

ところで、記事の中で一番気に入った部分がある。

イメチェンに成功し、希望のポジションを得た男からのアドバイスだ。Blackberryは止めて、Androidにし、Dellのラップトップではなく、Apple製品を使うようにという比較的うなずけるアドバイスの後に、彼はこう言う。

「一番最悪なのは金のロレックスだね」

+1 ;-)

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*1:記事には書いていないが、米国における長時間労働や残業というのは日本のそれに比べると大したことはないことが多い

*2:記事では、「そのような意味ではない」という彼のコメントが載っているが具体的な説明は得られなかったらしい。

*3:VCにおけるパートナー