リリースとローンチ

自分は言葉に気を配るほうだと思う。

単純な質問されたときにも、内容を正確に理解するために、「その◯◯ってどういう意味?」と聞いたり、「◯◯の定義は?」と聞いたりすることも多い。

面倒臭い人間だという自覚はあるが、プロダクトを作り育てるチーム内でビジョンを共有し、ディレクションを合わせるためには、面倒臭くなくてはならないというのが持論だ。日本社会はハイコンテキストな社会、すなわち「阿吽(あうん)」の呼吸で物事を進められるほど、コンテキスト(前提となる知識や価値観)が共有されている社会と言われるが、甚だ疑わしい。そこかしこで、「実は思っていることが違った」ということが起きている。ドメイン駆動開発(DDD)のユビキタス言語が必要なのもこのような現状があるからだ。

このように、言葉の定義にこだわる毎日を送る中、以前から気になっていた言葉がある。

リリース と ローンチ だ。

同じような意味合いであるが、何かニュアンスが違う。気になって調べてみたが、確固たる定義があるわけでも無いようだった。

english.stackexchange.com

このStackexchangeの記事では、リリースはソフトウェアを公開すること、またはソフトウェアが完成した状態としており、一方のローンチは最初のソフトウェアのリリースや注目に値するマイルストーンのリリースを指すとしている。

www.quora.com

また、こちらのQuoraの記事では、リリースはプロダクトを公開することとし、ローンチはプロダクトをリリースするプロモーションするためのマーケティング活動などを指すとしている。

この他にも多くの解説がある。日本語での説明も多い。しかし、これと言った決め手は無いようだ。ほとんど同じ意味だとか、言い換えも可能と言われていることも多い。

自分ごととして振り返ってみると、以前はローンチということは無かった。いつもリリースだった。

マイクロソフトWindowsの開発をしているとき、プロジェクトの終了はRTMだった。Release To Manufacturing、つまり工場出荷という意味だ。

これで開発は終了、もう触っちゃいかん!となると、本社でゴールデンマスターと言われるOSをインストールするためのメディア(当時はCD-ROMだった)が用意され、それを工場に引き渡して完了となる*1

当時使っていた言葉はすべて「リリース」。記憶を辿っても「ローンチ」という言葉を使った覚えは無い。

時は流れて、Web系のプロダクトを開発するようになった。この頃から「ローンチ」という言葉を使うようになった。

違いは何か。

リリースという言葉は、プロダクト以外にも「プレスリリース」などで用いられる。一般的にも釣った魚を逃す場合に用いる。つまり、ものを「解き放つ」という意味合いが強いのだろう。以前のWindowsのように、提供開始になったら、一旦終わりというパッケージプロダクトの場合、長く温めていたプロダクトを世に放つので、まさにリリースだろう。

一方、ローンチという言葉は、船を進水させたりロケットを発射するときに用いる「送り出す」という意味だ。船もロケットも送り出して終わりではなく、その後も対応が必要だ。ロケットが発射されても、目的地点に到達するためにはなんらかの操縦*2が必要だ。このように、ローンチは出した後も丁寧に制御していくものに対して使われる。

このように考えると、「作り育てる」ことが多くのプロダクトやサービスに求められるようになった今の世の中においては、リリースよりもローンチが必要になっていると言えるだろう。

たかが言葉だが、リリースと言っていたものをローンチと言い換えて、育て続けることを意識するようになるだけで、プロダクトづくりに対する意識も変わるのではないか。

従来のモノづくりからコトづくりに転換を進める企業の方には、こんなことから進めてもらっても良いのかもしれない。

*1:余談となるが、オンラインでメディアのISOイメージファイルをコピーできるが、当時のマイクロソフトでは物理メディアでの納品が主だったため、OEMへの出荷が急がれるときには、日本人社員が成田から飛び、現地の空港でメディアを受け取ってとんぼ返りというようなこともあった。売人かよ

*2:自動操縦も含む