読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

イノベーションは競合との競争で生まれるか?

前の会社に私が大変尊敬するVP (Vice President) がいた。残念ながら、すでに退職してしまっているが、10年ほど前に彼が来日した際には、すべての社内ミーティングや国内の重要顧客とのミーティングに参加させてもらった。

そこで見た彼の考え方や言動すべてが参考になったのだが、あるプレスとのインタビューで競合との関係について質問されたときの回答がこれまたイカしていた。

"Competitors make us great"

つまり、競合との競争が成長を促してくれると言ったのだ。市場に競争相手がいることが望ましく、その競合との競争によって、イノベーションは産まれ、顧客に価値のある技術を提供できる。その通りだと思った。

市場の状況や時期によっては、巨大化しすぎてしまった企業というものが存在することがある。市場を独占し、競合がほぼ見当たらないという状況だ。開発中の製品の競合がその製品自身の現バージョンや前バージョンであるというようなことも起こりうる。

このような場合、社内で仮想的に競合を生み出し、そこで競争を意識させることもある。社内で競争させるという意味ではない。実態以上に競合を高く評価し、社内での危機感を煽るのだ。そうでもしないと、組織が緩み、気づくと、まったく異なる価値観で勝負する競合に負けてしまっていることさえありうる。IT企業はパラノイアでないと成功し続けないと言われることが多い。仮想的に競合を作るくらいしないと生き続けていけないこともあるのだ。

このような状況を頻繁に目にしてきていたので、サムスンや最近成長著しいアジアなどの企業の他社に対しての激しいまでの競争意識というのは驚くにあたらない。

 「アップルをたたきつぶしてください。どんな手を使ってもいいから」。元サムスン社員だった日本人男性は、サムスン幹部が部下にこう指示するのをみて驚愕(きょうがく)した。

 事実、サムスンはライバル企業をつぶすために手段を選ばない。例えば、新興国の薄型テレビ市場で破格の低価格品を発売し、日本メーカーを後退させた。当然のことながら、売っても赤字という「逆ざや」に陥るが、潤沢な資金を持つサムスンなら可能だ。

「アップルたたきつぶせ」手段選ばぬサムスン 韓国に負けた日本企業 (1/4ページ) - SankeiBiz(サンケイビズ)

単なる価格競争であったとしても、コスト削減を実現するために、必要なイノベーションは確実に存在する。したがって、競合を研究し、それよりも賢く、素早く実行するということは否定されるものではない。

しかし、手段と目的を混同してしまってはいけない。

競合を意識しすぎるあまり近視眼的になってしまい、顧客不在で単に競争にだけに夢中になり、相手を叩き潰すことだけに躍起になってしまった場合には、新しい価値観を持つ技術を開発することはできない。

技術は常に顧客/ユーザーに価値を提供するものである。競合関係はあったほうが良いが、勝つためではなく、顧客/ユーザーのためには何が必要かということを忘れてしまっては、本末転倒になってしまう。顧客/ユーザーに支持された結果、競合との競争に勝つのであり、競合との競争に勝った結果、顧客/ユーザーに支持されるという方法をとるべきではないのだ。もし、そのようなことを続けたならば、早晩顧客/ユーザーは離れてしまう。

GoogleのCEO、ラリー・ペイジは先ごろ、テクノロジー企業の経営のあり方に警鐘を鳴らした。

「私は多くの会社の経営のやり方は深刻に間違っているのではないかと心配している。毎日会社に来てやることといえば、自分とほぼ同じようなことをしている同業のライバルの頭をどうやったら思い切りひっぱたけるかなどという仕事のどこが面白いのだろう? そんことをしているからほとんどの会社は次第に衰退していくことになるのだ」

Googleの精神―ラリー・ペイジ、「競争なんてくだらない。イノベーションこそすべて」と吼える

別に雇用者に迎合するわけではないが、競争相手のことをあまり強く意識し過ぎないほうが良い。

前の記事になるが、以前にもこのようなことを書いた。

競合製品を分析するならば、機能や実装に目をとらわれるのではなく、それが何を実現しようとしているかを探るべきだ。良く言われるように、手段と目的を分けて考え、手段にこだわるのではなく、目的を理解しなければいけない。それが利用者のどのような問題を解こうとしているのか、利用者に何を提供しようとしているのか、これが目的だ。その製品が持っている機能はたまたまその企業が手段として選んだに過ぎない。目的が理解出来たならば、それが自分たちにとっても優先度の高いものなのかを考える。同じ分類の製品であっても、どのような製品にしたいか、ターゲットは誰かによって、何を優先するかは異なる。自分たちにとっても優先度が高いとなったら、次にどのように実現するか、すなわち手段を考えることになる。

競合製品分析の際に心掛けること

以前に製品がすでにコモディティ化してしまい、寡占化している市場でビジネスを行なっている企業の方と話したことがある。

「もし、競合がある機能を追加した新製品を発表したらどうしますか?」
「すぐに分析して、次の商戦での新製品に搭載することを考えます」

実際そうなんだろう。仕方ないとも思う。だが、これではその市場自身のコモディティ化をより進めてしまうことになりはしないか。

その機能が提供された背景を考え、それがどのような新しい価値を提供しようとしているのか、どのような問題を解決しようとしているかを見たほうが良い。その目的に向かって、自社ならばどのように解決するかを考えるのがイノベーションを産むための競合分析だ。

そうしないと、その市場自身が萎んでしまい、その市場に存在していた技術もまったく異なる技術によって置き換えられてしまうことだろう。

競合との競争はあったほうが良い。だが、競争相手を見るのではなく、その先にある顧客/ユーザーを見ることが必要だ。