オライリー・ジャパン20周年記念
パーティ嫌いの私だが、今夜のパーティはとても良かった。技術系出版社として有名なオライリー・ジャパンの20周年記念パーティ。
いろんな人に会えた。元同僚や先輩、久しぶりの知人。私と同じように会社を辞めて新たな挑戦をした人や逆にもうすぐ退職するという人。お互い名前は知っていても、実は初対面という人などなど。
思えばオライリーとの付き合いは本当に20年ほど前からだ。
まだ社員が数人だったころだろう。どこかで私の名前を聞いたのか、確かメールでコンタクトがあった。オライリーと言えば、UNIX関係の書籍で有名だったが、Windows関係の書籍も出始めており、その1冊の監修をして欲しいというものだった。
TCP/IPによるPCネットワーク管理 (A nutshell handbook)
- 作者: クレイグハント,Craig Hunt,アウル出版企画
- 出版社/メーカー: オライリー・ジャパン
- 発売日: 1997/04
- メディア: 単行本
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私はと言えば、ちょうどWindows関係の雑誌に寄稿したり、バカ売れしたWindows本を書いたりした時期だった。このオライリーの本への貢献は大したことはない。少し追記をさせていただいたほどか。
次に担当した書籍はWindows NT/2000のセキュリティの本だ。
実は、この本を担当したことは今まで誰にも明かしていなかった。もう時効だろうし、今夜はめでたいから言ってしまうが、この本は監訳を担当した。監訳者「吉井孝彦」というのは私のことだ。
WindowsNT/2000 Server インターネットセキュリティ
- 作者: ステファンノーバーグ,吉井孝彦,Stefan Norberg,木田直子
- 出版社/メーカー: オライリー・ジャパン
- 発売日: 2001/06
- メディア: 単行本
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大した理由は無かったように思うが、本名を使いたくなく、このペンネームを用いた。編集者から吉井和哉に似ていると言われたのをそのまま鵜呑みにして付けた名前だ。下の孝彦がどこから来たのか忘れた。
この本は当時セキュリティ的に脆弱と言われていたWindowsサーバーもきちんとした設定を施し、いろいろなツールを用いれば十分セキュアなシステムになるというのを実証したものだった。
使われているツールのいくつかは(当時はまだ良くあったのだが)日本語が扱えないものがあった。そこで、修正パッチを作成し、作者にコンタクトし対応してもらったりした。まだ、GitHubも無いし、オープンソースがそんなに一般的で無かったころだ。そのツールも単にPDS(Public Domain Software)と呼ばれていたように思う。
ちなみに、この本の監訳の仕事はめちゃ速かった。原書がとても素晴らしいものだったこともあるし、訳者の方(結局一度もお会いしなかった)の仕事も素晴らしかった。自分が書いたものではないが、今でも自分が関わった思い入れのある本と言ったら、この本をあげるだろう。
その頃からセキュリティ関係の仕事も開始し、コミュニティ*1とも付き合うようになった。それもあって、IPsecの本にも協力した。どんな協力だったか忘れてしまったが、名前はどっかに入っているんじゃないかと思う。
この頃、他にも何か手伝ったような気がするのだが、ちょっと思い出せない。基本、Windowsの関係だったので、ずっと亜流だった。
私が直接お手伝いしたわけではないのだが、「Windows NTファイルシステム詳説」は、私がかなり煽って、翻訳版を出してもらった。恐らくまったく売れなかっただろう。「売れる売れないじゃないですよね。オライリーがどれだけWindowsにコミットしているかが今問われているんですよ!」とか言って説得したように記憶している。いや、本当に反省しています…
Windows NT ファイルシステム詳説―A Developer’s Guide
- 作者: ラジーブナガール,Rajeev Nagar,奥田司郎,日本ルーセントテクノロジー
- 出版社/メーカー: オライリー・ジャパン
- 発売日: 1999/01
- メディア: 単行本
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書籍以外に、1998年にオライリーが開催した最初のPerl Conferenceのスピーカー選定でもお手伝いした。ここも主にWindows版のPerlに関して担当できる人で何名か紹介したと思う。そういえば、Windows版Perlの商用版で有名だったActivePerlを出していたActiveStateの連中もここに来ていたはずだ。カメレオンかなんかのマスコットがあったような、いや、それはTCP/IPスタックを出していたCameleonそのものか。
そういえば、版を重ねるごとに分厚さを増す本がオライリーには多かったのだが、国際化の技術書として有名な"CJKV Information Processing"もその1つだ。この本の著者のKen Lundeと親しくなったこともあり、この本の最新版も是非翻訳をと、前に「Windows NTファイルシステム詳説」で反省したことなど忘れて頼んだのだが、さすがに出版不況になっていたこともあり実現しなかった*2。いやー、本当に良かった。
- 作者: Ken Lunde
- 出版社/メーカー: Oreilly & Associates Inc
- 発売日: 2008/12/30
- メディア: ペーパーバック
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仕事でブラウザを担当するようになったときに依頼してもらえたのが、「続・ハイパフォーマンスWebサイト」だ。当時GoogleにいたSteve Soundersが書いたWebのパフォーマンス・チューニングテクニックを書いたこの本に日本語版付録を書かせてもらった。当時まだあまり馴染みのなかったWebSocketを解説したり、HTML5系の技術を使うことによるパフォーマンス改善テクニックを書いた。また、編集部からの提案で、Steve Soundersにインタビューした内容も含めた。彼と直接やりとりしたが、とても楽しかった。それもこのような機会を与えて貰えたからだと、とても感謝している。
続・ハイパフォーマンスWebサイト ―ウェブ高速化のベストプラクティス
- 作者: Steve Souders,武舎広幸,福地太郎,武舎るみ
- 出版社/メーカー: オライリージャパン
- 発売日: 2010/04/10
- メディア: 大型本
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その後、しばらくは書籍のお手伝いをすることもなくなり、イベントなどでブースを出しているときに顔を出す程度になっていた。それに合わせるように、前は数ヶ月には1回は飲んでいた社員の人たちともあまり会わなくなってしまった。
そんなとき、 久しぶりに依頼があったのが、Googleのシカゴエンジニアリングオフィスを立ち上げた2名のエンジニアが書いた"Team Geek"の日本語版まえがきだった。
Team Geek ―Googleのギークたちはいかにしてチームを作るのか
- 作者: Brian W. Fitzpatrick,Ben Collins-Sussman,及川卓也,角征典
- 出版社/メーカー: オライリージャパン
- 発売日: 2013/07/20
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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個人が集まった集団としてのチームで行うことになる開発を解説したこの本に対しては、同じ会社に勤めていたこともあって、正直付け加えることはほとんど無かった。そこで、書かれていることのエッセンスを紹介できるように、私の経験したプロジェクトの例を出した。我ながら良いまえがきだと思う。
今日のパーティでは、この本の編集者と翻訳者の角さんとお会いすることができた。編集の方とは実際に会うのは10年ぶりくらいか。依頼も原稿の渡しもすべてオンラインで行ったので、この書籍のまえがきの件では結局一度も会っていない。
彼女に久しぶりにお会いして言われたのが、もちろん私の転職のこと。
「おめでとうございます。Qiitaですよね」
「ええ、ありがとうございます」
そして、同じく技術者向けコンテンツを提供している者同士で盛り上がった後に、技術者コミュニティを支えることについての話に移った。オンラインでのコミュニケーションが難しいという話で、このTeam Geekで紹介されているHRTが出た。
HRTとは、謙虚(Humility)、尊敬(Respect)、信頼(Trust)のことだ。チーム開発において、このHRTを意識することで、結局は人と人との繋がりに依存することの多いチーム開発のさまざまな問題点が解決する。
実は、このHRTは私が転職したIncrementsがチーム文化として大切にしていることの1つだ。QiitaやKobitoを作る開発チームの文化 - Qiita Blog はそのことを紹介した社長の海野さんのブログ記事だ。
このブログ記事を編集者の彼女も読んでいた。
"Team Geek"の日本語版まえがきを依頼された私が、このように"Team Geek"の精神を尊重してくれている会社に転職したというのを知ったとき、その驚きと感激はひとしおだったらしい。
私も転職を検討し始めたときに、このブログ記事を見つけてびっくりした。
もしかしたら、今回の転職は"Team Geek"が結びつけたものなのかもしれない。
パーティ会場には翻訳者の角さんもいらしていた。前から名前は存じ上げていたが、お会いしたのは初めて。さっそく、"Team Geek"の次についての話で盛り上がった。
パーティの終了時間が来ても、出席者はなかなか帰らなかった。私も自分の関係したオライリーの書籍の写真たちを見ながら、自分の技術者としての人生はオライリーの歩みと重なっているなと少し感傷に浸っていた。
ちょうど同じタイミングにまた次のマイルストーンへ足を踏み出す。
最後の挨拶で私の友人でもあるオライリーの渡里さんが言った。「オライリーはエンジニアのコンパニオンでありたい」。
20周年おめでとうございます。今度こそ久しぶりに飲みましょう。