吉本興業とネット企業の共通点
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2010/09/13
- メディア: 雑誌
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吉本興業というと芸人を多く抱える芸能プロダクションというイメージしかなかったが、東洋経済の「よしもと大研究」を読んで、だいぶイメージが変わった。この記事から伝えられる吉本興業は旧態依然としたプロダクションではなく、「笑い」を軸にしグローバルの展開さえ考えるスケールの大きな組織体であった。
記事で紹介されるのは、むしろネット企業*1の経営にさえ近いものだった。
明確なビジョン「それでなんかオモロイことできへんやろか」
「何か面白いことはできないかと、つねに笑いに結びつけて考えている」
この言葉が語るように、ビジネスのための課金、すなわちマネタイズも忘れてはいないものの、「笑い」という軸を失っていない。「単に儲けようとせずに、面白いものが正しいという信念がある」という記事の中で紹介される大手広告代理店社員の吉本への評価はネット企業のユーザーへの利益を中心とした考えを想起させる。エンタメ産業には利益至上主義は合わないと非上場化するところは長期の成長に対しての投資を株主に求めるネット企業のそれと重なる。
スピード経営
沖縄の春の風物詩になりつつある沖縄国際映画祭も、カンヌ映画祭の雰囲気にほれ込んだ大崎社長が「日本でもこんな映画祭をやろう。沖縄で、みんなを呼んで」と、つぶやいたことが始まり。
というような素早い行動力の一方、撤退の決断も早い。例として「07年に発刊した隔週刊の漫画雑誌『コミックヨシモト』は、わずか7号で廃刊した」ことを紹介する。
よくなる見通しが立たなければすぐにあきらめる。過去やしがらみにとらわれない決断が、スピード感ある経営を生み出している。
サービスの停止や事業からの撤退を素早く決断するのは、ネット企業のそれと同じだ。「過去やしがらみにとらわれない」というのは、模範となるような過去がないことを表す。ロールモデルという言葉もあるが、自らが先駆者である場合、モデルとなる例はない。そのような場合、失敗から学ぶことを良しとし、自らが市場を切り開く必要がある。
実験と現場を尊ぶカルチャー
800人を超える芸人数を背景に、いろいろな種類の芸人を次から次へ登場させてくる。<中略>「特別な人がたくさんいるだけでなく、層がベテランから若手まで幅広い」
これは「お笑い民主主義」と呼ばれているように面白いかどうかを公平に判断する仕組みが備わっているからに他ならない。その仕組とは吉本が東京と大阪に持つ小屋(劇場)だ。「お笑いをつねに打てる小屋(劇場)を持っているのが最大の強み。テレビだとスタッフの笑いだけだが、観客の前に出れば、世間で何がウケるかすぐにわかる」
劇場は実験の場であると同時にトレーニングの場。実践してみないとどう変化すれば良いかわからないし、ニーズもわからない。それを吉本はわかっている。
ネットにおけるA/Bテストなどにおける実験と同じ考えだ。仮説を立てた上で、実践しユーザーからのフィードバックを得る。石橋を叩いている間に市場環境が変わり、リスクは確かに軽減出来るかもしれないが、それよりも先にチャンスさえ失ってしまっている従来型の企業との大きな違いだ。
東洋経済のこの記事を読んだ後、以上のような感想をTwitterに書き込んだところ、 【ぢぎとよ】週刊東洋経済編集部のTwitterアカウント(http://twitter.com/digitoyo)から次のようなコメントをもらった。
そうなんです!よしもとは笑いのプラットフォームです!RT @takoratta: 東洋経済9/18号 http://amzn.to/crtybv // 非ネイティブの英語術を目当てに読んだけれど、それよりも よしもと大研究 のほうが興味深く読めた。自社との意外な共通点を感じたり。
そう。ネット企業との共通点は「イノベーションプラットフォーム」というところか。海外への展開にしても、ネット企業の挑戦と類似するものを見る。
最後に、吉本興業社長大崎洋氏の言葉を紹介する。ビジョンを共有し、その上で全員参加型で考えるという方針を見ることが出来る。
変わらないために変わり続ける、転がり続けることだと思う。変えてはいけない部分と、変えなければならない部分を、タレントと一緒に、次の100年に向けて考えていく。自ら決断することもあるが、タレントや芸人さんと一緒になって吉本興業が存在し続けることの意味や意義を考えていく。まず共通の目標みたいなものをどう作るか、から始める。